青学のテニス部がレギュラー(候補も含むみたい)9人だけで、合宿を行っているらしい。そして、私達氷帝テニス部も、同じ人数の9人でそこに合流することになった。
私も、氷帝のマネージャーとして、お手伝いをしに行くんだけれど。青学には、マネージャーがいないらしく、私が両校のサポートをするみたい。・・・大変そうだけど、マネージャーは好きでやってるから、楽しみという気持ちの方が大きい。
それに・・・、泊りがけなわけで。先輩と少しでも一緒に居られることが嬉しい。・・・って、別に、何かあるとか期待してるわけじゃないけど!!それでも、妙に浮かれちゃう。
今も、合宿所に向かうバスの中で、私はワクワクしている。こんな気持ちがバレたら、跡部部長に「遊びに行くんじゃないぞ」なんて言われてしまいそうだ。
さて、合宿所に着くと。青学の皆さんが迎えてくださった。私達はライバルでもあるけれど、同じテニス仲間でもあるわけだから、久々に皆さんに会えたのも、嬉しかった。
「あ〜!さんも来てくれたんだー!!」
そう言ってくださったのは、菊丸さんだった。
「私も参加させていただくことになりました。皆さんの邪魔にならないよう精一杯頑張りますので、よろしくお願いしますね。」
「ぜ〜んぜん!邪魔なんかじゃないよ〜ん♪ね、大石!」
「あぁ。こちらこそ、よろしく頼むよ。」
他の皆さんも、温かく迎えてくださって、とてもありがたかった。・・・ようし、マネージャーとして頑張るぞ〜!
・・・なんて、気合を入れてみたものの。いつも、大人数の部活のマネージャーをしている私としては、9人×2校じゃ少ない方だ。そりゃ、合宿ならではの仕事も少しは増えているけど・・・。それでも、やっぱり暇だと思える時間もあって・・・、気が付けば私は1人の先輩の姿を目で追ってしまっている。・・・って、これじゃ、本当に遊びに来てるみたいじゃない!
とにかく、できることをしていかなくちゃ!!私は軽く頭を振ると、そう思い直して、意気揚々とマネージャー業を再開した。
「お疲れ様です。」
そう言って、私は休憩に入られた青学の菊丸さんへドリンクを渡した。
「ありがと!・・・・・・・・・ふぅ、美味しい!こうやって美味しいドリンクが用意されてるなんて、本当嬉しいことだよね。」
「ありがとうございます。」
「氷帝にとってはさ、これが当たり前なのかもしんないけど。青学じゃ、美味しいドリンクなんて用意されにゃいからね!」
「じゃあ、各自で用意されてるんですね。」
「そうそう。じゃないと、乾に変な汁を飲まされちゃうんだにゃー・・・。」
「変な・・・?」
「そう!むしろ、あれは飲み物じゃない・・・。」
「一体、どんな物なんでしょう・・・。」
「そんなこと、絶対乾に言ったらダメだかんね!さんも飲まされちゃうから!!」
「飲めなくはないんじゃないですか?」
「ムリムリ!!もう、声とか出なくなって、ジタバタしちゃうか、その場ですぐに倒れちゃうか、だよ!!」
菊丸さんは首を手で押さえながら、苦しそうな表情を精一杯作っていらっしゃった。乾さんのドリンクの想像は全くつかないけれど、その菊丸さんのリアクションが面白くて、私は思わず笑った。
「大変そうだということは、わかりました。」
「ほんっっっと、大変にゃんだから。不二でも、こんな白目になって・・・。」
1人1人の反応を面白おかしく再現されるので、私もまた笑って話を聞いていた。
「。話してる途中、悪いんだけど。」
その声を聞いて、私はハッと我に返り、すぐさま頭を下げた。
「す、すみません!向日先輩!!すぐに、ドリンクをお持ちします!!」
「おう。別に、そんなに急ぐ必要はねぇからなー。」
向日先輩は優しく、そう言ってくださったけど・・・。マネージャー業もせず、ただ喋っていただなんて・・・。本当、私は何の為に合宿に来てるの?!
それに、そんな失態を向日先輩に見られてしまうなんて・・・。
何を隠そう、向日先輩こそが私の好きな人なのだ。それで、合宿で一緒に居られると思って・・・。
あぁ、完全に浮き足立っていた。私はもう1度集中し直そうと、急いでドリンクを持って行った。
「すみません、お待たせしました!!」
「だから、いいって。それに、コイツが引き留めてたんだろ?今、コイツから聞いたぜ。」
「ごめんね、俺が話し込んじゃったばっかりに。」
「いえ、そんなことは・・・!!」
そうだ。菊丸さんは、何も悪くない。私が悪い。そう思っているのに、まだ菊丸さんは私をかばってくださった。
「さんと話してたら、楽しくて・・・。ついつい話し込んじゃったんだよ〜・・・。」
「こちらこそ、楽しかったので、つい・・・。」
「本当?ありがとー!さんみたいなマネージャーが青学にもいてくれたらにゃー・・・。むしろ、さんがなってよ!」
「それは無理ですよ。でも、ありがとうございます!」
「そうだぜ。は俺らんとこのマネージャー。俺はコイツがいねぇとやってけねぇの。」
・・・・・・・・・。菊丸さんにかばってもらい、褒めてもらえたのも、もちろん嬉しかった。だけど・・・、今の向日先輩の言葉。きっと、先輩は何気なく言っただけなんだろうけど、それでも、向日先輩のことが好きな私からすれば、この上ない褒め言葉で・・・。むしろ、変な勘違いまで起こしてしまいそうなぐらい、ありがたい言葉だった。
「本当、氷帝は羨ましいにゃー・・・!」
「だろ?」
そんな自慢げに言われると、本当に舞い上がってしまいます・・・。
「それじゃ、そろそろはマネージャー業に帰してやらねぇとな!」
「そうだね。ありがとねー、さん♪」
「いえ、こちらこそ、ありがとうございました。また、楽しいお話聞かせてくださいね。」
「いいよ〜ん!」
一礼して、私がその場を去ると、向日先輩もこちらにいらっしゃった。
「先輩・・・?」
「今から何やるんだ?俺も手伝うぜ!」
いつものように、先輩は笑顔でそう言ってくださった。・・・どうやら、こっちの方に用があったのではなく、ただ私を手伝うために、来てくださったみたい。本当に、ありがたいことだ。
「大丈夫ですよ。いつもより人数も少ないですから。」
「ん〜・・・。じゃあさ、ちょっと喋ってもいいか?」
「・・・えぇ、それは構いませんけど。」
「悪ぃな。それなら、菊丸とも話したかっただろ?」
もちろん、菊丸さんと話すのも楽しいけれど・・・。正直なところ、向日先輩とこうして話せる方が、私にとっては幸せだ。でも、だからと言って、菊丸さんのことを否定することはできないし、するつもりもない。
「その・・・。えぇ〜っと・・・。向日先輩と話す時間も楽しいので、大丈夫です!」
そしたら、そんな微妙な返答しかできなかった。向日先輩にも少し苦笑いをされてしまった・・・。
「なんかさ、相手が菊丸だから、余計に思ったんだろうけど。俺も、と話したくなって。で、無理矢理、菊丸から離しちまったんだ。ごめんな?」
「いえ、とんでもないです!私も向日先輩とお話したいと思っていたので、光栄です!!」
「本当か?ありがとな!」
・・・って、結局、向日先輩がいいって断言したようなものだよね・・・・・・。まぁ、菊丸さんには聞かれてないってことで、許してもらうことにしよう。それに、菊丸さんを否定したわけじゃないしね。私にとって向日先輩の存在が大きかった、ってだけの話。
「でも、本当、俺って情けねぇ。ちょっと菊丸と喋ってたからって、嫉妬するなんてよー。こんな俺なんて、怒ってやってもいいんだぜ?せっかく菊丸と喋ってた時間を邪魔したんだから。」
怒るも何も。むしろ、私にとっては嬉しいことで・・・。本当、勘違いしてしまいますよ。
「邪魔されたなんて、ちっとも思ってませんよ!」
「・・・本当、はいい奴だな。」
そう言って、向日先輩は私の頭をポンポンと撫でてくださった。・・・これ以上、先輩を好きにさせて、どうするつもりですか!と思いつつ、やっぱり幸せを感じている私がいるのも事実。・・・うん、仕方がない!!
「そんなに褒めたって、何も出ませんよ?」
「いいよ。ただ、と話せる時間が増えたら、それで。・・・遊びに来たわけじゃないってのもわかってるけどさ。やっぱり、せっかくの合宿だから、少しでもと一緒に居たいんだ。」
・・・本当、どうして、そういうことを言ってくださるんですか。私の方が絶対にそう思ってます・・・!でも、そこまで言う勇気は無いので。
「私も、そう思ってます。」
とだけは言っておいた。
「マジで?!ありがてぇなー!・・・あ〜、でも。の場合、どうせ俺ら全員と、さらには久々に青学の奴らと、一緒に居たいとか思ってんだろー。俺は、にだけ、そう思ってるんだぜ?」
だから、どうして先輩はそんなことまで言うんですか・・・?!私に告白しろとでも言いたいんですか?!!そりゃ、本心では、私だって向日先輩と一緒に居たいと思っていますよ・・・。でも、そんなこと言えるわけがない!!と思って、黙っていると・・・。
「だって、俺はのこと、好きだもん。」
「・・・・・・それは、後輩として、とか、マネージャーとして、ってことで、ですか???」
「ううん。そういうんじゃなくて、が好き。・・・って、俺、なんで合宿初日に告白してんだろうな!ちょっとテンション上がりすぎちまったみてぇだ。だから、今の聞き流しといていいぞ。ま、いつか、また言い直すわ!」
・・・本当に、先輩は私のこと振り回しすぎです。
「聞き流すわけがないじゃないですか。むしろ、聞き流したくありません。私だって、向日先輩のこと・・・・・・向日先輩と一緒に居たいです。」
「今、言い換えただろ?」
「だって・・・、告白なんて恥ずかしくて、できません・・・。」
「でもさ。の気持ちは、よ〜くわかった。で、その気持ち、俺が受け取ってもいいんだよな?」
「・・・はい。」
当たり前です。・・・そんな言葉すら言えないほど、私は照れてしまって、俯いていた。一方、向日先輩は「う〜ん・・・」と言いながら、何かを考え始めていらっしゃった。
「どうしたんですか、先輩。」
「の気持ちが聞けたのは、すげぇ嬉しいんだけど・・・。だからこそ、ちゃんと告白したかったなぁーって思ってよ。だって、嫉妬の挙句、流れで告白だぜ?みっともなさ過ぎじゃん、俺。」
「・・・私にとっては、今のでも、充分嬉しいですけど・・・。」
「ダーメ。男は、こういうのに拘んの。」
男の人がどうかは知らないから、それは向日先輩だけなんじゃないかとも思うけれど。少なくとも、そこまで、考えてもらえるのは、素直に嬉しい。
「ってわけで、とりあえず、仕切りなおしな!」
「仕切りなおし・・・ですか?」
「そう!だから、やっぱ、さっきのは聞かなかったことにしといて。・・・で。俺はが好き。付き合って欲しい。もっと一緒に居たいんだ。」
さっきのはさっきので嬉しかったけれど、こうしてちゃんと言ってもらえるのも、やっぱり嬉しかった。・・・向日先輩の言うとおり、意外とこういうのは大事なのかもしれない。だったら、私も・・・。
「。返事は?」
「あ、はい。えぇ〜っと・・・。私も先輩のこと、好き、です。なので・・・、お願いします。」
「よし!おっけー!!」
恥ずかしかったけど、自分の気持ちをちゃんと伝えた。それを聞いて、向日先輩も満面の笑みを見せてくださった。そんな先輩を見てたら、もっと幸せを感じて、自然と私も笑っていた。
「おい、!」
「はい、跡部部長!ただいま・・・!」
・・・って、またマネージャー業がおろそかになってしまいそうだった。そうだ。どれだけ嬉しいことがあっても、ここには遊びに来てるんじゃないんだから!
「それでは、向日先輩。失礼します。本当にありがとうございます!」
「こっちこそ、ありがとな!何か困ったことがあれば、すぐ俺に言えよー!で、この合宿も。帰ってからも。いっぱい一緒に過ごそうな!」
「・・・はい!」
あ〜ぁ・・・。やっぱり、浮かれちゃうよ・・・。そんな私の様子を見て、跡部部長はとても怪しまれた。
・・・仕方がないじゃないですか!だって、すごく嬉しいんですもん。顔に出るぐらい、許してください。でも、マネージャー業はちゃんとしますから!!・・・まぁ、向日先輩のためにも、って気持ちが大きいことも否定はできませんが。
テーマは、やっぱり『男前がっくん』です!!・・・なってるかは不明ですが;;
私としましては。好きだと素直に伝えられる余裕さを持ちつつも、ちょっとした嫉妬も見せてしまう、だけどそれに対する反省も直接話せるという点が、向日さんらしい男前な部分じゃないかなーと思います。
ちなみに、この話を書こうと思ったきっかけは。実際の出来事なんですよね!
とある授業で、先生が勝手に作った班で課題に取り組み・・・。私の班は、男子2人と私という3人だったんです。それで、女子1人だった私に気を遣ってくれたのか、1人の男子が別の班の男子に「もし、俺とお前とコイツの3人班やったら、終わってたなー!この子(=私)がいてくれて良かったな(笑」と言われ、「ホンマやで。俺、この子がいーひんかたら、やっていけへんもん」と言ってくれました。
先生に決められた班ですから、元々仲良くはなかったんですけど、その一言はキュンときましたね!・・・だからと言って、その後、進展とかは全くありませんが(笑)。
とりあえず、このセリフは、好きな人に言われたら、すごい殺傷力だろうなぁと思い、この話を書かせていただきました!
('08/07/02)